中小企業の事業承継支援で絶好調の日本M&Aセンターに「死角」はないか?

中小企業の事業承継支援で絶好調の日本M&Aセンターに「死角」はないか?

中小企業のM&Aを多く手掛ける、国内大手のM&A仲介会社「株式会社日本M&Aセンター」の業績が好調です。年間案件成約件数やM&Aコンサルタント数で国内トップの強さはどこにあるのか。将来性はあるのか。同社の決算説明会資料を参考に、情報を整理してみました。


第3四半期累計の経常利益が最高額

日本M&Aセンターは2019年2月8日、2019年3月期第3四半期決算を発表しました。

第3四半期累計の売上高は227億1700万円で、対前年同期比113.8%、営業利益は同104.5%。経常利益の通期予想に対する進捗率は86.6%と、計画を順調に達成しています。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

第3四半期累計の経常利益としては、過去最高を更新。四半期業績としても、前期に次ぐ過去2番目の水準となっています。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

コンサルタントの人件費は「売上原価」

売上高のほぼすべて(98.4%)はM&A仲介によるもの。売上総利益率(粗利率)は63.2%、売上高営業利益率は47.7%を誇ります。

日本M&Aセンターでは、売上原価の中に「案件紹介料・外注費」(売上高の15.2%)と「人件費・旅費交通費」(同21.2%)が含めています。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

人件費が売上原価扱いになる職種は、「M&Aコンサルタント」と、営業企画部・営業支援部・企業評価総合研究所スタッフなどの「営業サポートメンバーのスタッフ職」。それ以外のスタッフ職の人件費は、販管費の中に含まれます。

案件紹介料や人件費を売上原価に含めていることから、日本M&Aセンターは、

●金融機関や会計事務所などからの「案件紹介」に依っているビジネスであること
●コンサルタントは給与を「変動費=成果報酬」的に受け取っていること

が分かります。なお、日本M&Aセンターの従業員321人の平均年間給与は1319万5000円にものぼります(2018年3月31日現在)。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

業績を押し上げたのは、コンサルタントの順調な採用です。対前年同期比で58人、21.3%の増加で、今年1月末までにさらに増やしているようです。

成約件数も、四半期および第3四半期累計として過去最高。3ヶ月で100件を超える成約数があるということは、1日1件以上となります。ちなみに後述するように、日本M&Aセンターは「両手取引」の仲介ビジネスなので、1組のM&Aでも売り手と買い手を別々にカウントしています。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

鍵を握るのは「情報ネットワーク」

ここで日本M&Aセンターのビジネスモデルを確認しておきましょう。日本M&Aセンターは「中堅・中小企業M&A仲介」に特化したM&A仲介で成約実績No.1(累計4,500件)を誇る会社です。

中小企業と取引をしている会計事務所や地域金融機関、大手金融機関、ベンチャーキャピタル、ファンド、コンサルタント会社から、譲渡会社(会社を売りたい人)や譲受会社(会社を買いたい人)の情報を入手し、M&Aを仲介して成立させます。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

このような「情報ネットワーク」の仕組みを確立していることが、日本M&Aセンターのビジネスモデルといえるでしょう。会計事務所を中心とした国内最大級のM&Aプロフェッショナル集団「日本M&A協会」を運営するほか、多数の地方銀行や信用金庫と提携を行っています。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

収入源は、M&A仲介業務の中で譲渡企業と譲受企業から受け取る「着手金」「中間報酬」および「成功報酬」です。

出典:2019年3月期 第3四半期 決算説明資料

成功報酬の算出方法について、日本M&Aセンターでは「企業の総資産(時価)」をベースとした「レーマン方式」を採用している、としています。

料金について|日本M&Aセンター

https://www.nihon-ma.co.jp/service/fee/

私たちは創業以来、M&Aの成功率を最も高め、かつなるべくお客様の負担が大きくならないような料金設定を模索してきました。試行錯誤を経て私たちが辿りついた、「最高のM&A」を実現するための料金体系をご紹介します。

なお、M&Aコンサル会社には、売り手と買い手両方から手数料を得る「両手取引」と、売り手か買い手のいずれかから助言料を得る「片手取引」があります。

主に前者の「両手取引」で収益をあげているのは、日本M&Aセンターのほか、M&Aキャピタルパートナーズやストライクで、「売り手と買い手それぞれ1件としてカウント」として成約数を出しています。一方、「売り手、買い手いずれかのアドバイザー」として手数料を得るGCAのような会社は後者となります(いずれも東証一部上場企業)。

当社が提供するM&Aサービスについて|日本M&Aセンター

https://www.nihon-ma.co.jp/service/domain.html

M&Aサービスは、ウェブサイトで検索すると非常に多くの会社が出てきます。その中でも、代表的なビジネスモデルのパターンを比較してみました。成約率の高さとマッチング品質で選んでください。

なお、「片手取引」のM&Aアドバイザーは、十分な手数料を確保するために比較的大きい案件のみを引き受ける傾向があるため、ディール規模が小さい案件には合わないことが多いです。

また、M&A仲介に規制はなく許認可申請などは必要ありませんが、銀行や証券会社などの金融機関は金融庁の指導により「両手取引」を禁じられており参入できません。

このことから、日本の事業会社の約99%を占める中小企業M&Aでは、譲渡企業と譲受企業の双方から報酬を受け取る「M&A仲介会社」が貢献できる環境が整っているといえます。

M&A需要の将来性に不安はないか

業績絶好調の日本M&Aセンターですが、将来性に不安はないのでしょうか。同社のサイトにコラムが掲載されているように、2020年の東京五輪直前に「経営者の大量引退期」が到来すると予想するデータがあります。

事業承継ガイドラインpickup―2020年頃に経営者の大量引退期到来|MA Channel

https://www.nihon-ma.co.jp/columns/2017/20170124release/

経営者のピーク年齢が66歳と引退時期に差し掛かっている中、事業承継において親族内承継から親族外承継へと主流がシフトしつつある現状が明らかになりました。

中小企業のM&A需要とは、経営者の引退に伴う「事業承継(株式譲渡)」によるものです。引退のピークが間近であるということは、いまがM&A需要のピークである可能性もあります。そんな中で人材の大量採用を行うと、将来的に固定費が重くのしかかるおそれもあります。

なお、会社は2018年3月期の有価証券報告書の「事業等のリスク」の中で、中堅中小企業のM&Aマーケットは「少子化や中堅中小企業をとりまく厳しい経済環境等を背景に今後も安定的に拡大を続け、短期的にそのトレンドが大きく変化することは現時点では考えにくい」と分析しています。

確かに中小企業は、今後は内需縮小に対応することが求められ、業界再編などにも用いられるM&Aが一概に減少するとは言えません。また、人件費を変動費的に扱っていることから、固定費が嵩むリスクは回避しているようにも見えます。とはいえ、投資や転職を行う際には、今後のM&A需要の変化には注目が必要です。

この企業情報の記事作成

アナリストになる夢を持ち、証券会社で営業をしながら日々頑張ってます。

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