リクルートのOBOGに学ぶ「よいキャリア」を歩むポイント

リクルートのOBOGに学ぶ「よいキャリア」を歩むポイント

人材研究所代表・曽和利光氏の連載第10弾。リクルートの人たちがどんな考えて転職に望んでいるか、3つのポイントをまとめてもらいました。「市場価値より一品モノを目指せ」という考え方は、みなさんにも使えるのではないでしょうか。


今回は古巣におんぶに抱っこの記事です。ちょっと自分でもまとめてみたくなり、筆を執りました。私は、リクルートの採用を10数年、うち6年を最終面接などの責任者として担当してきました。今でもちょっとだけお手伝いしています。

当然ながら、リクルート社員とのつながりはとても多く、あの人は元々どんな人で、結局どうなった、みたいな「Before/After」を他の人より多少は知っています。

リクルートは「採用」という名前の会社であり、創業事業は人材ビジネスだったからかもしれませんが、彼らの多くはキャリア巧者です。知らないうちにいろいろなところで頭角を現して、自分のポジションを作り上げています。

ただ、それは「皆さんが優秀だから」かというと、単純にそういうわけではない気もするのです(リクルートの人、すみません)。今回は、それはなぜか、について考えてみました。(文:人材研究所代表・曽和利光)

「フィードバック」で自己像崩壊

最初に思い浮かんだのは、リクルートに入ることによって受ける激烈なフィードバックの洗礼です。昔は「フィードバックの文化」と呼んでいました。

リクルートでは、事あるごとにフィードバックを受けます。例えば、入社半年後、3年目、マネジャーになったときなどの節目では、必ず360度評価(上司・同僚・部下など、周囲の人から評価を受けること)を受けます。

そして、それを自己評価と比較させられ、ギャップについて詰められ、内省させられます。そうすると、嫌でも自分について勝手に抱いていた、理想化された「きれいなジャイアン」みたいな自己像は崩れ去らざるをえません。

研修だけでなく、毎日がフィードバックの嵐です。人の心に土足でヅカヅカ入り込んできて、関係ない人が「お前ってこうだよね」とありがたいフィードバックをくれます。そんな環境で、理想化された自己像が崩れてしまうのはしんどいことではあります。

それでも、真実の自己に向き合わなくてはならなくなるのは良いことです。というのも、キャリアの基本は、自分を知ることだから。自分の特徴を正確に知ることで、どんな場所で自分は生きるのかがわかります。

そう、リクルートの人は、浮き足立っていないのです。自分の実力をきちんと見極めて、適したところに身を置こうとする。活躍するのは当然です。

「退職活動」で自己洗脳

また、リクルートは終身雇用など無縁で、人がどんどん辞めるというイメージがあるせいか(本当はそんなに辞めませんが)、上司に転職すると「あ、そうなの。がんばれよ」とかあっさりと許可されると思われがちです。

しかし、まったくそんなことはありません。激しく慰留されるのが基本です。たいてい1~2ヶ月ぐらいは引き留めに遭います。何度も面談して「なぜ辞めたいのか」「辞めてどうするのか」を聞かれます。

上司だけでなく、過去にお世話になったいろんな人が出てきて、その都度「なぜなのか」をきちんと説明しなければなりません。それはもう、転職活動前の「退職活動」と言ってもよいぐらいです。

こういうことがわかっているリクルートの人は、世の中的には非常識と言われるでしょうが、まずは会社を辞めることに全力を注ぎます。そして無事(?)辞めることが許されたら、それから転職活動をするのです。

私はリクルートを2回辞めていますが(出戻りなので)、2回ともそうでした。「うわ、ウザい」と思われたかもしれませんが、無論それは意地悪でとかパワハラでやっているわけではありません。

引き留める人は、何かインセンティブがあるわけではなく、みんなボランティアです。辞める側も、恩人たちが引き留めてくれることは基本うれしいことです(大変ですが)。ですので、誠実にきちんと答えようとします。

でも、それがよいのです。一時の気の迷いで辞めようとしているなら、きちんと答えることができず、自分でもそれに気づき、変な退職をせずに済みます(私も1回ありました)。それだけいろんな人に「なぜ、辞めたいのか」を深く考えて話すことで、どんどん覚悟ができてきます。

それはもう、自己洗脳と言ってもよいかもしれません。「あれだけタンカを切ったのだから、もう頑張るしかない」となるわけです。そういう転職をしたら、活躍する可能性は高まるでしょう。

市場ではなく「ネットワーク」に身を置く

リクルートの人が、リクルートの人材サービスをあまり使わないのは公然の秘密(?)です。リクルートの人は、人のツテを頼って「ネットワーク」で転職をする人が多い。

リクルートはオープンでフェアな大きな「市場」「マーケット」を作り、なんのツテのない人でも実力さえあれば転職できるようにしました。これは、とても社会的意義のあることです。

ただ、市場とは多数の需要と供給があるものに対して成立するものです。言い換えれば市場で取引されているものは、多くの場合「コモディティ」(一般に広く存在するため、大きな差別化が困難になったもの)ということです。

どんな人でもいろいろな特徴を持っていますが、マーケットで自分を売るのは、自分の「コモディティ」な部分、例えば、学歴・職歴、専門知識、語学…などの他人と比較検討できる部分に注目され、値がつけられるところに身を置くことです。

もちろん、コモディティといっても相対的に希少なものを持っている人は、市場でも高値がつくでしょう。ただ、それでも、自分を唯一無二の存在、「一品モノ」として見てくれる場合よりは希少性は少なく、高値はつきません。

例えば、私が38歳の時にリクルートを辞めるとき、転職サイトや人材紹介会社を通して来た案件と、知人からの紹介や勧誘で来た案件とでは、実に3倍の年収の開きがありました。

前者は、私を「40前の人事マネジャー経験しかないおじさん」と抽象化して(≒コモディティとして)見ていました。後者は、私を私としてみており、「リクルートのあの局面で採用責任者を務めてあんなことをした人」みたいに考え、「まさに、その経験が欲しいのだ」と言ってくれました。

「一品モノ」として欲しがる人が出るまで待つ

それは一種の美術品のような見方なのかもしれません。そんな風に感じてくれたら、人によってはくだらないように思える絵であっても、別の人は1億円でも買いたいという世界ですから、値段はあってないようなものです。

ただ、自分というなんでもない存在を、ダイヤモンドだと見てくれるような稀有な人はそうそう見つかるわけではありません。ですから、タイミングも大切です。そういう人が見つかってもいないのに、転職活動をとにかくし始めてしまったら、いつまで待っても稀有な人は現れず、結局、市場で安売りする羽目になってしまうかもしれません。

それでは、転職に失敗しないためにはどうすればいいかと言えば、実は簡単な話で、「誘いがあった時に真剣に考える」だけです。自分のタイミングで転職しようなどと思わず、チャンスが来たら乗るということです。

なお、これは前述した「転職先を決める前に辞める」ことと矛盾しているわけではありません。自分でやりたいことを決めていれば、個人事業や勉強をしながら待つこともできるのですから。

今の会社や仕事が嫌で転職するという人は、そういうタイミングを待てないので、安売りをしてしまうのです。転職動機がポジティブな人なら、時が満ちるのを待つことができることでしょう。

以上、今回は私が知っているリクルートから転職した人がどんなスタンスを持ち、どんな活動をしていたのかについてご紹介しました。

「フィードバックで我を知る」「退職活動で覚悟を試す」「自分を高く買う人を人づてで探す」というのは、どんな人でもやろうと思えばできることかと思います。参考になりましたら幸いです。

この企業情報の記事作成

人事コンサルティング、採用アウトソーシング、新卒人材紹介を行う株式会社人材研究所 代表取締役社長。

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