転職を見据えた「筋のいい年収アップ」と「筋の悪い年収アップ」の見分け方

転職を見据えた「筋のいい年収アップ」と「筋の悪い年収アップ」の見分け方

人材研究所代表・曽和利光氏の連載第6弾。今回は「年収アップ」を目指した転職の落とし穴について解説します。自分の実力と報酬が見合っていないと感じている方に、一読をおすすめします。


転職理由の一つに、「今の自分の実力と報酬とが合っていないと感じるから」というものがあります。自分はこれだけ実績を上げていて、能力やスキルもついているのに、会社から得ている報酬はそれに見合っていない。だから、それを解消するために転職をするというものです。

「割安人材」というあなたの感覚が正しければ、人材紹介会社に登録したり、転職メディアから企業に応募したりすれば、おそらくあなたは引く手あまたでしょう。あなたを採用したがる企業は、今よりも高い報酬を提示してくるはずです。(文:人材研究所代表・曽和利光)

報酬への不満は「昇格一歩手前」に感じるもの

しかし私は、特に若い人の場合には、このようなタイミングで転職するのは極めてもったいないと思います。理由のひとつは、おおよそ30歳ぐらいまでは、目の前の報酬にこだわりすぎることは得策でないと思うからです。

たいていの会社では、職位が高くなるほど同一職位内の報酬差が大きくなる人事制度を取っています。若いときは数十万円の差が大きな違いに思えますが、歳を重ねて高い報酬を勝ち取れれば、数十万程度は誤差のようなものだったりします。

同年代の社員と比較してどうか、ということも重要です。相対的に自分が自社の中でどのくらいの位置にあるのかを考えて、比較的高い位置にいるのであれば、キャリアを積んでいけば希望の金額に到達するかもしれません。

多くの会社では定期評価よりも、昇格・昇進による報酬アップの金額を高く設定しています。なぜなら、昇格には至らないものの、その職位内で長く働いて欲しい人が多いからです。したがって、人が実力と報酬の差を最も感じるのは「昇格一歩手前」のときなのです。

社内のポストが詰まっているのであれば話は別ですが、少し我慢すれば昇格する可能性のある人が、そのタイミングで辞めるのはもったいない。転職で報酬が一時的に上がっても、次の会社での昇格はしばらくないでしょう。あなたを「適切な報酬」で迎え入れたと思っているからです。

若いとき「だけ」必要とされる会社ではないのか

早期リタイアを目指す一部の人を除けば、給与というものは「生涯賃金」「昇給カーブ」といった長い目で見る必要があります。

どんな年齢や職位の社員に、どのくらいの報酬水準を出すかという「昇給カーブ」は、会社の思想によって決まります。若いうちから高い報酬にしている会社は、ベテランになってもそれ以上は上がらない場合があります。

逆に、若いうちの報酬は低くても、ベテランになればなるほど報酬は高くなる会社もあります。あなたが転職しようとしている会社が前者のタイプであれば、高給は一時的なもので、そのうち昇給が停滞するかもしれません。

しかも、前者のような会社は、実は「若い人だけ欲しい」と考えている可能性があります。若いときには高給を支払うけれど、昇給をしなければ徐々に人は辞めていくだろう。むしろそうなって欲しいということです。

そうなると、結局は給与に不満が出て、再び新しい会社を探すことになります。若いうちから活躍したいという気持ちはわかりますが、若いとき「だけ」必要とされる会社に行きたいわけではないでしょうから、ここは是非気をつけてください。

転職市場は「ポジション」で明確に分かれている

お金の話だけではありません。一時の報酬のために昇格を捨てることは、仕事機会の損失にもつながってきます。報酬を取るか昇格を取るかは、人によって考えが違うと思いますが、一般的にはプレイヤーからマネジャーになる方が大事と思います。

なぜなら、昇格によって権限や責任が広がれば、成長機会が増え、経験値が高くなるからです。もちろん「名ばかり管理職」のような場合もありますが、名前だけでもポジションを得ておくことにはメリットがあります。

転職市場は、プレイヤーは「プレイヤー市場」、マネジャーは「マネジャー市場」、エグゼクティブは「エグゼクティブ市場」に分かれており、昇格することで自分が流通する市場の格が上がります。その意味でも、昇格機会は大事なことなのです。

プレイヤーがマネジャーとして採用されたり、マネジャーがエグゼクティブとして迎えられたりする例もなくはないですが、基本的には横滑りです。マネジャーに昇格しておけば、マネジャー経験者として扱われるようになり、キャリアにおけるチャンスが増えるのです。

目の前の報酬より、能力開発機会の重視を

現代の人材市場は年々流動化しており、そのため実力と報酬が結局は見合うようになっていくと思います。能力だけきちんと身につけておけば、いつか適切な報酬を携えて機会の方からやってくることでしょう。

それが、本稿で述べてきたような「筋の良くない高給」なのか、満を持して受けるべき「筋の良い高給」なのかを見極めることが必要です。

特に若いうちは、報酬にこだわりすぎないことが、昇格や成長機会を生み、自分の能力を高めることにつながり、結果として高給を得ることができるようになるはずです。

生物的に見ても、若いときこそ能力開発をすべき時期です。基本的には目の前の報酬よりも、能力開発機会にフォーカスして、キャリアを中長期的に考えることをお勧めいたします。

この企業情報の記事作成

人事コンサルティング、採用アウトソーシング、新卒人材紹介を行う株式会社人材研究所 代表取締役社長。

関連するキーワード


悩まないキャリアの歩き方

関連する投稿


残業のない会社は単純に「良い会社」といえるのか?

残業のない会社は単純に「良い会社」といえるのか?

人材研究所代表・曽和利光氏の連載第9弾。「働き方改革」がいつの間にか「働かない改革」になっている昨今ですが、これで本当に生産性の問題は解決するのでしょうか。曽和氏はあえて「残業にも一分の理はある」とし、仮に残業をなくすとしても会社として補うべきものがあると指摘します。

悩まないキャリアの歩き方


悪用厳禁! 転職面接で「前の会社の悪口」をキレイに言う方法

悪用厳禁! 転職面接で「前の会社の悪口」をキレイに言う方法

人材研究所代表・曽和利光氏の連載第8弾。転職面接では「前職の悪口は言うな」というのが鉄則ですが、転職の動機を尋ねられたり、批判的な内容を言わないと話が矛盾したりする場合には、「前の会社の悪口」を言わざるを得ないときもあるでしょう。そのときは、どのように乗り切ったらよいのでしょうか。

悩まないキャリアの歩き方


「自分を引き上げてくれる人」を作れ! 能力や実績だけでは「出世」はできない

「自分を引き上げてくれる人」を作れ! 能力や実績だけでは「出世」はできない

人材研究所代表・曽和利光氏の連載第7弾。最近の若い人は「出世」に興味がないと言いますが、曽和さんは「正しいことをしたければ偉くなれ」という『踊る大捜査線』の名台詞を引用し、正当な自己アピールの必要性を説きます。

悩まないキャリアの歩き方


希望の職種に異動したければ、上司に「絶対異動させないで」と言えるようになろう

希望の職種に異動したければ、上司に「絶対異動させないで」と言えるようになろう

人材研究所代表・曽和利光氏の連載第5弾。いまの仕事を変えたい、希望する人気部署に異動したいと思ったら、かえって目の前に打ち込んだ方がいいという「逆説」について解説します。

悩まないキャリアの歩き方


「市場価値」で仕事を選ぶ落とし穴 その道を目指す人が増えれば希少価値が下がる

「市場価値」で仕事を選ぶ落とし穴 その道を目指す人が増えれば希少価値が下がる

人材研究所代表・曽和利光氏の連載第4弾。今回はキャリア開発の場面でよく言われる「市場価値」について。当たり前のように使われる言葉ですが、本当に大事なことなのでしょうか。

悩まないキャリアの歩き方


最新の投稿


【平均年収1214万円】三井物産はなぜ給与が高いのか

【平均年収1214万円】三井物産はなぜ給与が高いのか

就職・転職活動中の方は志望する企業をどのように決めていますか? 判断基準の1つとしてよく挙げられるのが「年収(給与・報酬)」。この記事では毎回年収面から注目の企業にアプローチ。データや口コミをもとに社員の収入実態に迫っていきます。今回注目する企業は総合商社の三井物産です。

三井物産 年収 商社


株式会社JR(ジェイアール)東日本リテールネットに就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

株式会社JR(ジェイアール)東日本リテールネットに就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

1987年に東日本キヨスク株式会社として設立。その後、2007年にJR東日本リテールネットとなった。コンビニエンス事業として「エキナカコンビニ」という新しい業態でスタートし、NewDaysとKIOSK合わせて約800店舗を展開している。デベロッパー事業として、東京駅などに「京葉ストリート」等、商業施設を開業させた。

東京都新宿区 非上場 小売


GMOクリック証券株式会社に就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

GMOクリック証券株式会社に就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

東京都渋谷区に本社を置く、インターネット証券会社。GMOフィナンシャルホールディングス株式会社の連結子会社であり、GMOインターネット株式会社の孫会社である。株式、投資信託、FX等を扱う。主力はFX取引きで手数料は業界最安値を誇る。創業以来、金融取引システムの企画・開発・保守・運用までを一貫して自社で行っている。

東京都渋谷区 非上場 証券


株式会社エスアールエルに就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

株式会社エスアールエルに就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

1970年創業。みらかホールディングス株式会社の連結子会社で、受託臨床検査事業を行う。東京都新宿区に本社を置き、日本国内に90カ所に営業拠点をもつ。主に大規模病院医から特殊検査を受託しており、検体を預かり分析や検査を行っている。また検診機関の運営受託や健康増進サービスも手がけている。

東京都新宿区 非上場 製薬


パラマウントベッド株式会社に就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

パラマウントベッド株式会社に就職・転職するなら知っておきたい情報まとめ

家庭用ベッドや医療用ベッドを取り扱う国内有数のベッドメーカー。国内のみならず海外にも納入しており、その実績は100ヶ国以上にのぼり世界シェア2位を誇る。2011年にパラマウントベッドホールディングスと株式交換を行い、完全子会社となった。女性活躍推進プロジェクトを立ち上げ、女性が活躍できる環境に注力している。

非上場 東京都江東区 化粧品・生活用品


wiget_w300 wiget_w300
'