『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?』は、いまは報われていない未来のヒーローへの熱いエールである。

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「離職率は低い方がいい」「職場の風通しはよいに越したことはない」――。人事部員やマネージャーは、そんな「社会的望ましさ」を前に、思考停止していないだろうか? リクルートの人事部GMなどを歴任した曽和利光氏が、組織の変革の足かせとなる「善人」を糾弾している。


曽和利光氏の最新刊『悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?人事のプロによる逆説のマネジメント』(星海社新書)は、曽和氏がキャリコネニュースに連載していたコラム「働きやすい職場とは何か」を中心に加筆、構成したものだ。

元のタイトルの「働きやすい職場」と、本書タイトルにある「悪人の作った会社」は、一見するとまったく対照的な存在に見える。しかし曽和氏は「社会的望ましさ」という言葉を使って、この2つをつなげて考察している。

「社会的望ましさ」を優先する愚を指摘

リクルートの人事部GMなどを歴任し、現在は株式会社人材研究所の代表取締役として会社組織を経営する曽和氏が繰り返し訴えるのは、人々が「社会的望ましさ」に沿うことばかりに気を取られ、本質的な取り組みを怠ってしまう愚かさへの警告だ。

社会的望ましさとは、例えばアンケートなどの場面で、回答者が「自分が信じている価値」ではなく、「社会的に最も受け入れられやすい考え方」に従って回答するような状況を説明するために使われることが多い。

この場合の回答者には「自分の姿を社会的に望ましいような形に見せようとする力」が働いており、そういう社会的圧力が、アンケート結果から真の消費者の姿を把握することを妨げるわけだ。

企業の人事部員やマネージャーにも、同じような「社会的望ましさ」のプレッシャーが数多く働いており、日々の業務に影響を与えている。たとえばこんな感じだ。

離職率は低い方がいい」
職場の風通しはよいに越したことはない」
「人事やマネージャーは『働きやすい職場』を目指すべきだ」
「これからの会社には『柔軟な働き方』が求められている」
「マネージャーは切れ者でなければならない」
「リーダーシップにはビジョンが必要だ」
「上司たるもの、部下からの相談には親身に耳を傾けるべきだ」
飲みニケーションは、もはや時代遅れの産物」
ストレス耐性の高い人を採用すべきだ」
「会社は若手の採用に励むべきだ」
若い人たちがすぐに活躍できる職場は、よい職場である」
「部下には仕事を丁寧に教えるべき。盗めというのは古臭い考え」
「組織のメンバーにダメ出しするマネージャーはいまどき失格」
「職場の雰囲気は明るくなければならない」等々・・・

社員が「ある程度辞めないとダメ」な理由

例えば社員の「離職率」は、一般的には低いほどいいと思われている。離職率の低さをアピールする企業は「優良企業」と呼ばれ、学生からの人気を集めているのが現状だ。

しかし曽和氏は、この「社会的望ましさ」に敢然と立ち向かう。「人はある程度辞めないとダメ」という項をわざわざ立てて、古巣のリクルートのよさをあげ、過去に耳にした社員のグチを踏まえて「人が辞めない会社」の弊害を指摘する。

「上が詰まっていてポストが空かないので、昇進がしにくい」
「何年も同じメンバーで、マンネリ化してきて新しい発想が生まれなくなっている」
「一度ついた序列(しかも、ほぼ入社順)が、ずっと変わらずに続く」

そして「一人前になるのに十年もかかる職種」であれば別だが、マーケットの変化の激しい事業を展開する会社であれば、過去の経験の蓄積よりも「新しいアイデアを生み出す新しい人」が必要になり、その場合には「離職率は相対的に高い方がよい」と言う。

そのうえで曽和氏は、企業は一律に「低離職率」を追求するのではなく、組織ごとに「適切な離職率」を設け、退職金制度の調整などの方策でそれをコントロールすることで、高齢化やマンネリ化、少子化(辞めてほしくない若手の退職進行)といった組織の深刻な問題を防ぐ必要性を説いている。

「利他的な悪人」こそが変革の原動力になる

目の前の組織の問題に向き合わず、人事部員やマネージャーたちが「社会的望ましさ」に沿おうとばかりするのは、一種の思考停止といえるだろう。とはいえ、社会的望ましさに沿わないことをすれば、周囲の顰蹙も買うし、それを説得しながら物事を進めるには労力がいる。

しかし、本当の意味で自分たちの役割を全うしようとすれば、時には表面的な「社会的望ましさ」に反することに手を着けざるをえない。それができる人を、曽和氏は「利他的な悪人」と呼ぶ。その矛先が、対極にある「利己的な善人」に向かっていることは間違いない。

「社会的望ましさ志向の強い人(=善人)の行動は、一見すると『利他的』な態度に見えます。しかしその実態は自分の利益しか考えない『利己的』な場合も少なくありません」
「承認欲求が強く、認められることが第一。『認められたい』という外発的動機では相手の受け狙いに終始し、創造性は発揮されません。新しいことは生まれにくく、付和雷同で長いものに巻かれ、『王様は裸だ』と決して言わない」
「私は、人事責任者や人事コンサルタントとして多くの会社で企業の変革を目にしてきました。そこには(中略)『利他的な悪人たち』が大勢いました。そして彼らこそが変革の影の主役であり、原動力であったのでした」

ひょうひょうとした語り口の読みやすい文章だが、その裏にはパンクな攻撃性が隠れている一冊だ。残念ながらいまは報われていないが、正しいことを貫こうとしている人たちへの熱いエールとして読むことができるだろう。

悪人の作った会社はなぜ伸びるのか? 人事のプロによる逆説のマネジメント (星海社新書)

¥ 本体960円(税別)

リクルートとライフネット生命で辣腕を振るった人事だから語ることのできる逆説のマネジメント論

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