日本のサラリーマンにも「これは私の仕事ではない」と宣言するときが来る――曽和利光氏が語る「自分のキャリア」のつくりかた

日本のサラリーマンにも「これは私の仕事ではない」と宣言するときが来る――曽和利光氏が語る「自分のキャリア」のつくりかた

転職というと「嫌な会社から逃げ出す」というイメージが強い。しかし人材研究所代表の曽和利光氏によれば、「自分のキャリアを作り、守るために辞める」というポジティブな転職もあるという。ぼんやりと「このままではいけない」と考えているだけの人には、刺激になる考えだ。


これまで日本企業の社員は、会社から振られた仕事は、どんなものであってもこなさなければならないのが常識でした。解雇規制が厳しい代わりに会社には広範な人事権が与えられ、新しい仕事の任命や人事異動の業務命令を断ることは原則できません。あまりに非合理な異動などを除けば、断ることは懲戒の対象になることもあります。

そんな背景もあり、上司の命令を社員が「これは私の仕事ではありません」と断ることは、背景がどうであれ根強くタブー視されています。しかし「自分のキャリア」を自分で築き上げていくことを意識すれば、日本のサラリーマンにも「これは自分の仕事ではありません」と言うべきときがやってくるでしょう。

曽和 利光 氏
人事コンサルティング、採用アウトソーシング、新卒人材紹介を行う株式会社人材研究所 代表取締役社長。京都大学で学んだ心理学とリクルート人事部GMとして培った営業スキル、2万人の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用する独自手法「プラチナ採用」を確立。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスで一貫として人事畑を進み、株式会社人材研究所設立。採用後ろ倒し対策のコンサルティング、面接官・リクルータートレーニング、イベント選考アウトソーシングなど採用を全て一気通貫で行う。
◆人材研究所ホームページ
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

その領域のプロになるには「必要な時間」がある

大企業など新卒採用を中心とした人材確保を行ってきた日本企業では、とりあえず会社の仲間になってもらい、その時々で必要な仕事をしてもらう「メンバーシップ型採用」が中心です。

そんな中で「これは私の仕事ではありません」と言う人には、「協調性がない」「好き嫌いで仕事をしている」「利己的である」「組織貢献度が低い」などのレッテルが貼られ、低い評価が下されることが多かったと思います。

しかし、今の世の中では、これは自分の仕事ではないときちんと退けないといけない場合もあります。それはある程度、自分の中で深掘りしたい専門領域が見つかったときです。ある仕事が天職だと考え、その領域のプロになりたいと思ったとすれば、しばらくはその領域での仕事をしなければ、その思いは達成できません。

マルコム・グラッドウェルの「1万時間の法則」(超一流になるには1万時間ぐらいの練習や経験が必要)のように、能力開発には能力獲得の壁を越えるために必要な時間の「閾値(いきち)」というものがあります。その閾値を超える前に別の仕事に変えてしまっては、またイチからやり直しです。

1~2年やって分かった風になり、次の仕事に移るジョブホッパーが敬遠されるのもこの理由です。「分かる」と「できる」は違います。短期間にいろいろやっている人は、何も身についていないことも多い。だから、やりたい仕事ができた後に別の仕事をアサインされた場合は、きちんと自分の意思を説明して「これは私の仕事ではない」と伝えなければならないこともあると思います。

やりたい仕事ができなくなったら「転職」も選択肢に

新卒採用の生え抜き人材を重用する大企業とは異なり、ベンチャー企業の中途採用などでは、特定の仕事をしてもらうことを前提に採用する「ジョブ型採用」を行っています。専門スキルや過去の実績を基に「この仕事でこの成果をあげて欲しい」ということが明確に示されるので、「これは私の仕事ではありません」ということがありえます。

もし、自分が取り組みたいと思う仕事以外の仕事をどうしてもやれと言われてしまったら、安易にはお勧めしませんが、一つの方法として「転職」はアリだと思います。

私の例で恐縮ですが、私は20年ほど人事実務をやってきましたが、どうしてそれが可能だったかというと、それ以外の仕事をアサインされるようになったときに、幅を広げるか、専門性を深めるかを悩んで、結局、後者を選んで、人事の仕事ができるところに転職をしてきたからです。

新規事業開発の仕事をやれと言われたり、管理部門長として法務や経理をやれと言われたりしてきましたが、結局、自分には興味が持てず、人事がやれるところに移りました。それが正解だったかどうかはわかりません。もし新しいアサインを受けていれば、経営者としてもっとうまく行っていたかもしれません(笑)。

このように、ふつう転職は今の仕事を変えるためにするものですが、私のように今の仕事を続けるため、深めるための逆説的転職とでもいうべきものもあるのです。

若い人は「食わず嫌い」をしない方がいい理由

もちろん、「これは自分の仕事ではありません」とあえて言わないことで得られるメリットもあるでしょう。例えば、将来経営者を目指す人には多様な経験が必要です。経営陣にはジェネラリストであることを求められ、CTOだって経営数字が分かる必要があります。与えられた仕事を幅広くこなした経験は、後々生きてくるでしょう。

十分なスキルもなく適性も志向も分からない段階の育成対象である若手にも、与えられた仕事機会に食わず嫌いをしないことは相変わらず有効であると思います。だまされたと思って、一度は真剣に取り組んでみてください。どうせ、と言っては何ですが、20代ぐらいまでの若手の悩みは「やりたいことが見つからない」なんですから。

なんとなく「やりたいこと」があるという人でも、その「やりたいこと」は、あまり根っこが生えたものではない「ねつ造されたWILL」(何かやらないといけないという焦りから、無理やり作り上げた幻想の「やりたいこと」)が多いものです。

クランボルツの「計画された偶発性理論」(偶然を意図的・計画的なステップアップの機会へと変えていくべきという考え方)からみても、イケてるキャリアを歩めている人は、自分の狭いキャリア志向の視野の中に留まっていません。意外なアサインがあった場合に「まあ、よくわからないけど、せっかく自分に何かを期待してアサインしてくれたのだろうから、やってみるか」とチャレンジすることで、チャンスを手に入れることが多いものです。

そのアサインが本当にそういう意図でされたものであるか否かは、必ずしも関係ありません。自分がそういう機会にしていくのです。このような意味では、若い人が簡単に「それは私の仕事ではありません」と言ってしまうのはもったいない気がします。

個人のキャリア志向を守らない会社は、人を使い捨てにしている

現在、成果主義に疲れた会社の多くが、再び「行動規範」による評価を取り入れています。少し前にGEが人材評価に使っていた「ナインブロック」のように、会社が社員に望む行動規範に従って日々の業務を遂行しているかどうかを、業績に加えて重要な評価対象にしているのです。

この行動規範には、結構な確率で「協調性」や「チームへの貢献」などの要素が入っています。それはとりもなおさず「新しい仕事を断らずにやってみろ」「場面に合わせて自分を変えてみろ」と言っていることと同じです。不文律を超えて、制度化までされているところもあるのは事実です。

ただし、それは会社の都合によるマネジメント手法のひとつであって、行動規範を厳守していれば、その会社の居場所が生涯保証されるわけではありません。若手や経営幹部候補以外のマジョリティである中堅層には、どんどんジョブ型採用が広がってきていますし、これからも増えていくでしょう。

そういう時代においては、自分が深めたい専門性に関係のない領域の仕事を、まだ能力開発の閾値を超えていないような中途半端なタイミングでアサインされた場合は、勇気を出して「これは自分の仕事ではありません」と言わなければなりません。

そうでなければ、結局、エネルギーも専門性もない、ビジネスにおいてどこからも必要とされない人になってしまうかもしれないのです。

個人のキャリア志向を守らない会社や職場は、人を使い捨てにしているわけです。そのキャリア志向に「根っこが生えている」ことが前提ですが、自分の大切なキャリア志向は自分で守らなければ、便利使いされてしまいますよ。

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