「誰も間違いを正さない風土」が東芝をメルトダウンさせる 毎日新聞・今沢真氏に聞く

「誰も間違いを正さない風土」が東芝をメルトダウンさせる 毎日新聞・今沢真氏に聞く

東芝が4月24日、「社会インフラ」「エネルギー」「電子デバイス」「情報システム」の主要4部門の分社化を正式決定したと報じられた。とはいえ、これで経営危機から復活するかはいまだ不透明だ。この問題の根深さを追及してきた毎日新聞記者・今沢真氏に、東芝が抱える問題の真相を聞いた。


今沢真氏(編集部撮影)

2015年7月に不適切な会計処理が発覚して以来、混迷を続ける東芝。医療機器事業の売却や7000人を超える人員整理を断行し、一時は経営危機を乗り越えたに見えたが、今度は原子力子会社「ウェスチングハウス」において、数千億規模の巨額損失問題に見舞われた。

ようやく発表された2016年4〜12月期決算は営業利益が5,762億円の赤字、純損益が5,325億円の赤字。しかしこの結論について東芝と監査法人の間で折り合いがつかず、結果お墨付きのない「意見不表明」という異例の事態だ。

なぜ名門企業がこのような事態を招いたのか、なかなか立ち直れないのはなぜなのか――。毎日新聞のWebサイト「経済プレミア」で東芝問題を追いつづけ、今年3月に『東芝消滅』を上梓した今沢真・毎日新聞経済プレミア編集長兼論説委員に話を聞いた。

「原子力はバラ色の世界」という妄想から抜け出せなかった経営陣

――今沢さんは2016年7月の第三者委員会よる不正会計の調査報告書が発表された際には、ウェスチングハウス絡みで、また大きな問題が噴出してくるかもしれないと予見されていたそうですね。

今沢真氏(以下、今沢) はい。ですが、まさかこれほど早く巨額損失という形で出てくるのは想定外でした。耳にしたときには、驚きと「やっぱりな」という気持ちが交じり合っていましたね。

そう思えたのには理由があります。それは経営陣が、中核事業の原子力事業は利益が上げられていないのに「バラ色の世界」だと妄想し、しがみついたままだったからです。

経費や原価を過小に見積もり利益を上げているように見せかけて2000億円を超える利益を水増ししていた2015年の不正会計問題のときには、すでにウェスチングハウスにも減損問題があることはわかっていました。しかし、当時の東芝執行部は、不正会計を調査する第三者委員会に働きかけ、原子力事業を調査対象から除外させました。

調査報告書発表の際には現職を含めた歴代3社長が辞任。後任の社長には室町正志氏が就任しますが、原子力事業には切り込むことはありませんでした。
続く会長・社長人事ではそれぞれ志賀重範氏、網川智氏が就任しますが、志賀氏は長らくウェスチングハウスに在籍し、損失を隠し続けてきた人物。網川氏は立場上、志賀氏の意向に沿うことしか出来ず、原子力事業には触れられることはありませんでした。

―――ウェスチングハウスの過去の損失を隠した当事者を経営陣のトップに据える。断固として原子力事業の実態には指一本触れさせない布陣といえます。どうしてこのような人事が行われてしまったのですが?

今沢 社長や会長を選任するのは社外取締役で作る「指名委員会」です。グレーな存在である人物を選んだ理由として、指名委員会の委員長、小林善光・三菱ケミカルホールディングス会長は「グローバルな実績と原子力という国策的な事業をやるについては、余人を持って変え難い」と説明しました。原子力事業のグローバル展開という国策を優先したのです。社外取締役の役目は、地に落ちた東芝の信用を回復させるため、常識の世界に連れ戻す役目を担っていたはずなのに、国策を優先し機能しなかったのです。

東芝の第三者委員会が、不正会計が起きた背景に「上司の意向に逆らうことの出来ない企業風土」であると指摘していました。会長と社長という間でも、さらには社外取締役さえも間違いを正すことができない。誰一人として「間違っている」と言えない空気なのです。

東芝自主再建への道筋は見えたのか?

東芝消滅(毎日新聞出版)

―――東芝の経営陣が原子力事業に正しく目を向けていれば、まだなんらかの手は打てたのではないかと思いますが、1兆円もの損失を出してしまった今、東芝はこのまま消滅へとむかっていくのでしょうか。

今沢 規模の大きな会社だけに銀行もつぶすわけには行かないという思惑はあるでしょうから、直ちに消滅とはならないでしょう。

2016年には債務超過が目前に迫る中、中国企業に家電事業を売却し不採算部門の整理をしました。続いて、虎の子といわれた医療機器事業をキヤノンに売却しました。まだまだ成長が見込める事業を売り渡したことで、高値で売ることが出来、東芝はなんとか持ちこたえることが出来ました。そして今、半導体メモリー事業が売却に向かって進んでいます。半導体事業の切り売りは東芝の中核事業を手放すこと。虎の子以上のものを売ろうとしています。

―――そして一番の問題であったウェスチングハウスが3月29日に連邦破産法11条の適用を申請しました。

今沢 私はウェスチングハウスのリスクを何とかして切り離さないと、東芝に未来はないと考えていました。原発の工期は遅れに遅れ、20年までに4基完成させなければならないのに、3月の時点で建設工事は3割しか進んでいませんでした。工事遅延によってコストはかさみ東芝の首を絞めつつけるのは目に見えていました。社運をかけて購入したウェスチングハウスの経営をコントロールできずに失敗したのです。福島第一原発事故後の原発をめぐる環境の変化に向き合わず、なおも原子力事業に執着したのは明らかな経営判断の誤りであり、東芝経営陣の責任です。

東芝経営危機の第二幕は上がったばかり。現時点では予想がつきませんが、もっと身を切る覚悟は必要ではないでしょうか。自主再建を必死に模索していますが、経営者としては当たり前のこと。間違いを間違いと指摘し、経営にとって障壁になるものは完全に断ち切る覚悟で望むべきだと考えます。

東芝消滅
東芝消滅
  • 発売元: 毎日新聞出版
  • 価格: ¥ 1,080
 
 

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